ADHDで家事ができない——「ちゃんとやる」を捨てて、工程を数えることから始める

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洗濯物が、干されたまま3日目です。シンクには皿が積み上がっています。
筆者(ADHD当事者です)の部屋で、何度も起きてきた光景です。そのたびに「自分はだらしない」と結論づけてきました。
でも、この結論のほうが間違いでした。
家事ができないのは、性格の問題ではなく、家事というタスクの構造の問題です。
家事には、終了条件がありません。担当の工程も決まっていません。
定義されていない仕事は、誰がやっても詰まります。仕事なら「要件が曖昧」と差し戻される案件を、毎日渡されているのと同じです。
この記事では、家事を工程に分解して、詰まる場所だけを仕組みで潰す方法を書きます。「ちゃんとやる」方法は書きません。
ちゃんとやるのを、まずやめるところから始めます。
「家事ができない」のではない。終わりのないタスクの塊を渡されている
結論から書きます。家事は1つの仕事ではなく、終了条件が未定義の小タスクが数十個、並行で走っている状態です。
普通の仕事と比べると、家事の異常さがわかります。
- 終了条件がない(「きれい」は感想)
- 締切がない(いつでもいい=やらない)
- 工程に名前がない
- 完了しても翌日リセットされる
しかも全部が並行です。料理の途中で洗濯が終わり、そこにゴミの日が割り込んでくる。
1つに集中すると別の家事が止まり、止まった家事は視界から消えます。消えた家事は、3日後に「干されたままの洗濯物」として再発見されます。
筆者は本業で法人向けのAI研修を売っていますが、営業の目で見ると、家事は要件定義のない案件です。受けたら確実に燃える条件が、最初から揃っています。
終わりが見えない。並行で走る。工程が曖昧。段取りが苦手な人間が一番詰まる条件の、フルコースです。
だから、最初にやるべきは掃除でも洗濯でもありません。要件定義のやり直しです。
「洗濯」は1タスクではない——名もなき工程を数える
要件定義の第一歩として、「洗濯」を実際の動作に割ってみます。
- 部屋中の脱いだ服を集める
- 洗えるもの・洗えないものを分ける
- 洗濯機に入れて回す
- 終わった合図に気づく
- 干す
- 取り込む
- 畳む
- しまう
「洗濯する」と呼んでいた1語の中に、8つの工程が入っていました。4番のような、名前すらない工程まで挟まっています。
そして、ここに重要な発見があります。
詰まっているのは「洗濯」ではなく、特定の工程だけです。
回すまでは毎回できるのに、干すで止まる人がいます。取り込むまでは行けるのに、畳むとしまうが数日放置になる人もいます。
干されたまま3日目の洗濯物は、「洗濯ができない」証拠ではありません。「取り込む工程だけが詰まっている」証拠です。
📌 【公開前に対応】TODO: 体験談: 筆者自身が洗濯のどの工程で詰まるか(実際に毎回止まる工程を1つ特定して書く)
「家事ができない」という言葉は、解像度が低すぎて対策が立ちません。「畳む工程で詰まる」まで割れると、対策は急に具体的になります。
皿洗い・ゴミ出し・風呂掃除も、同じ型で割れる
食器も同じです。「皿洗い」は、運ぶ・残飯を捨てる・洗う・すすぐ・拭く・しまう、の6工程に割れます。
シンクの皿の山は、たいてい「洗う」ではなく、「運ぶ」か「しまう」の詰まりです。詰まりの位置が違えば、打つ手も変わります。
ゴミ出しなら5工程です。各部屋のゴミを集める・分別する・袋を縛る・玄関に置く・収集日の朝に出す。
ゴミ出しの失敗は、「朝に出し忘れた」に見えます。でも割ってみると、抜けているのは前夜の「玄関に置く」です。
玄関に袋さえあれば、朝の自分はほぼ確実に出せます。責めるべきは朝の記憶力ではなく、前夜の工程の未配置です。
分別で詰まる人もいます。その場合は、部屋のゴミ箱を分別の数だけ置いて、「分別する」工程自体を日常に溶かします。
風呂掃除は4工程です。道具を取る・浴槽をこする・流す・道具を戻す。
ここで詰まるのは、こする作業そのものではありません。多くの場合、最初の「道具を取る」です。
洗剤とスポンジが棚の奥にあるだけで、着手の壁は1段上がります。それなら対策は「頑張って掃除する」ではなく、道具を浴室の手が届く位置に吊るすことです。
家事の種類が変わっても、見方は変わりません。工程に割る、止まる場所を特定する、の2手だけです。
家事を回す4つの設計原則
工程が見えたら、次は運用の設計です。原則は4つだけにします。
原則1:1回に完了させるのは、1工程だけでいい
「洗濯を終わらせる」のではなく、「今日は取り込むまで」と決めていい、ということです。
8工程を1日で通すのは、連続8タスクの完走です。途中で切れるのは失敗ではなく、順当な結果です。
だから最初から、工程単位で区切ります。「回すだけの日」「畳むだけの日」があっていい。
1工程の完了を、1勝と数える。
ビフォー:「今日も洗濯を終わらせられなかった」。アフター:「今日は取り込むまで進んだ。畳むのは明日の工程」。
やった内容は同じでも、後者は勝ちの記録です。この数え方に変えると、「何もできなかった日」がまず減ります。
原則2:終了条件は「観測可能な状態」で決める
「きれいになったら終わり」は、終了条件として機能しません。きれいかどうかは気分で変わるので、永遠に終われないからです。
終了条件は、目で見て一瞬で判定できる状態にします。
- ×「シンクをきれいに」→○「食洗機のスタートを押した」
- ×「部屋を片付ける」→○「床の服がゼロ」
- ×「洗濯をやる」→○「洗濯かごが空」
「ボタンを押した」が終了条件なら、洗い上がりは機械の仕事です。自分の担当はボタンまで、と線を引けます。
この線引きは気休めではありません。終了の判定に迷いがなくなると、着手の腰も軽くなります。
ゴールが曖昧な作業は、始める前から重いのです。
ビフォー:「片付けたのに、終わった気がしない」。アフター:「床の服はゼロ。だから今日は完了」。
原則3:詰まる工程だけを、道具と家電に外注する
乾燥機付き洗濯機・食洗機・ロボット掃除機。この手の家電は「家事全体を楽にするもの」と思われがちですが、正確には特定工程の外注先です。
- 乾燥機付き洗濯機=「干す・取り込む」の外注
- 食洗機=「洗う・すすぐ・拭く」の外注
- ロボット掃除機=「床掃除の着手」の外注
だから導入判断の基準は、値段でも人気でもありません。自分がどの工程で詰まっているか、です。
干す工程で詰まっていない人が乾燥機付きを選んでも、生活は変わりません。逆に、干すで毎回止まる人にとっては、工程を2つ消してくれる道具になります。
全自動化は目指さなくていいです。詰まっている工程だけ、ピンポイントで外注します。
ビフォー:「高い家電を買ったのに、生活が変わらない」。アフター:「干す・取り込むの2工程が、家から消えた」。
原則4:床に置く場所を、1箇所だけ公認する
「床に物を置かない」を全面ルールにすると、結果的に全面に散らかります。守れないルールは、ゼロか無限かのどちらかに倒れるからです。
なので逆に、置いていい場所を1箇所だけ公式に決めます。かご1個でも、椅子1脚でもいい。
脱いだ服も、開けていない郵便物も、全部そこへ。すると他の床を「置き場ではない」と定義できます。
ビフォー:「服がどこかに散っていて、集める気が失せる」。アフター:「集める先も探す先も、かご1個だけ」。
散らかりが1箇所に集まると、「集める」工程が最初から半分終わっています。物の定位置を物理で決める考え方は、忘れ物対策の記事で詳しく書きました。
工程分解は、AIにやらせると10秒で終わる
ここまで読んで、「工程に分解する作業が、もう面倒」と思った人へ。それは正しい感覚です。
分解も1つの工程なので、そこから外注していい。筆者はこのサイトの運営も含めて、段取りはAIに投げる方針で生活しています。
自力で分解すると、たいてい2パターンで失敗します。粗すぎて詰まりが見えないか、細かく作り込んで初日に飽きるか、です。
工程分解プロンプト——どのAIでも動く
AIなら10秒で、ちょうどいい粒度が返ってきます。コピペで使える形で置いておきます。
今週の家事:洗濯・食器・風呂掃除・ゴミ出し。
全部を工程に分解して、番号付きの一覧にして。
1工程は「1つの動作で終わるサイズ」まで割ること。
説明は不要。一覧だけ返して。
1行目を自分の家事に書き換えるだけです。返ってきた工程表を見て、「毎回止まるのはどれか」に印を付けます。
AIはどれでも構いません。スマホに入っているチャット型のAIで、無料の範囲で足ります。
投げるタイミングは、家事を始める前ではありません。「やる気が出ない」と気づいた、その瞬間です。
一覧を眺めるだけなら、やる気はいりません。着手は、その後で十分です。
返ってきた一覧は、そのままスマホのメモに貼って使い回せます。分解は毎回やる作業ではなく、一度作れば資産です。
📌 【公開前に対応】TODO: スクショ: 上のプロンプトをAIに投げて、家事の工程一覧が返ってきた画面
分解プロンプトの型をもっと知りたい場合は、タスク分解プロンプト10型にまとめてあります。
何もしたくない日の、1工程選抜プロンプト
こちらは、選ぶ気力すら無い日のためのプロンプトです。
今日は何もしたくない日です。
上の家事の工程一覧から、
「これだけやれば今日は合格」の工程を1つだけ選んで。
理由や励ましは不要。1行で。
ポイントは、選ぶ仕事をAIに渡すことです。動けない日は、やる体力より先に「選ぶ体力」が尽きています。
投げる場所は、1本目と同じ会話の続きです。工程一覧が残っていれば、貼り直しは要りません。
1工程だけ指定されれば、判断ゼロで着手できます。それでも無理な日は、やらないでいい日です。
この方法がうまくいかない時——失敗パターン3つと補修方法
工程方式にも、決まった壊れ方があります。筆者のような段取り下手が踏みやすい順に、3つ先回りしておきます。
失敗1:完璧な家事スケジュールを作って、初日で崩壊する
工程が見えると、つい週間スケジュールを組みたくなります。月曜は洗濯、火曜は風呂掃除、と美しい表が完成します。
そして初日にズレた瞬間、表ごと捨てることになります。計画は「1箇所ズレたら全部無効」に感じられるからです。
補修方法:曜日に固定せず、「詰まり工程1つ+最低ライン」だけを持ちます。表を作るのは、それが2週間回ってからで遅くありません。
最低ラインは、工程表の一番手前から選びます。皿なら「運ぶだけ」、ゴミなら「玄関に置くだけ」です。
詰まり工程のほうは、1日1回だけ触ります。触った時点で合格とし、完了までは求めません。
どうしても予定に組み込みたい場合は、崩れる前提の組み方があります。詳しくはスケジュール管理の記事に書きました。
失敗2:家電を買ったのに、使う工程で詰まる
食洗機を導入したのに、シンクには皿が積んだまま。よく起きる事故です。
原因は単純で、家電が消すのは「洗う」工程だけだからです。代わりに「食洗機まで運んで入れる」という新しい工程が生まれています。
詰まりが「洗う」ではなく「運ぶ」にあった場合、家電では解決しません。詰まり工程の特定を飛ばして買うと、こうなります。
補修方法:家電の手前の工程を、小さくします。使う食器の枚数自体を減らす。シンク横に「入れる前の皿はここ」という一時置き場を作る。
「運ぶ」自体も、2つに割れます。「テーブルから一時置き場へ」と「一時置き場から食洗機へ」です。
食後の自分の担当は、前半だけで合格とします。後半は、食洗機を回す直前の1工程として別枠に置きます。
手前の工程が軽くなると、買った家電は急に働き始めます。
失敗3:「ためてから一気に」が破綻する
「週末にまとめてやる」は、一見合理的な戦略です。でも、たまった家事は総量が増えるだけでなく、着手の壁も高くなります。
週末の自分は、平日の自分より有能ではありません。むしろ山を見上げて、着手できないまま1日が終わります。
しかも「一気にやる」の所要時間は、たいてい見積もりの2倍を超えます。見積もりが楽観に倒れる話は、時間見積もりの補正ルールに書いたとおりです。
補修方法:ためる上限を、意志ではなく物理で決めます。「洗濯かごが一杯になったら回す」「シンクに皿が入らなくなる前に運ぶ」。
トリガーにする物は、量が一目で見える状態にします。フタ付きのかごや扉の中は、一杯になっても視界に入らないからです。
カレンダーではなく、物の量をトリガーにする。これなら日付を忘れていても発動します。
今日から始める手順(15分でいい)
やることは3つだけです。今日の分として、これ以上はやらないでください。
- 一番放置している家事を1つ選ぶ
- AIか紙で、工程に分解する
- 毎回止まっている工程に印を付ける
対策はまだ立てなくていいです。「自分は畳むで詰まるタイプだ」とわかること自体が、今日の成果です。
やりたくなっても、初日に全部の家事を分解しないでください。作り込みは、飽きの前借りです。
もう少し動ける夜のために、明日を軽くするチェックリストも置いておきます。全部やっても5分かかりません。
- 脱いだ服を公認の置き場に移す
- 皿をシンク横の一時置き場へ運ぶ
- ゴミ袋を縛って玄関に置く
- 洗濯かごの量を見る
- 明日の1工程をAIに選ばせる
共通点は、どれも明日の自分の「手前工程」であることです。今夜の1動作が、明日の着手の壁を1段下げます。
できなかった夜は、飛ばして構いません。リストは義務ではなく、翌朝への割引券です。
意志に頼らず仕組みに寄せる考え方の全体像は、習慣の仕組み化の記事にまとめてあります。
よくある質問
Q. 家族や同居人との分担がうまくいきません。
A. 「家事名」ではなく「工程名」で分けるのを試してください。「洗濯やってよ」は範囲が曖昧で揉めます。「回すまでは私、畳むからはお願い」と工程で線を引くと、担当と完了が誰にでも判定できます。
Q. 一人暮らしで、誰も見ていないと動けません。
A. 観測者を人間以外に置く手があります。AIに「今から皿を運ぶ」と宣言して、終わったら一言報告する。終了条件が観測可能な状態になっていれば、見届け役は機械でも成立します。
Q. 家電はどれから買うべきですか。
A. 万人共通の正解はありません。まず1週間、自分がどの工程で止まったかをメモしてください。一番多かった詰まり工程を外注できる家電が、あなたの1台目です。詰まっていない工程の家電は、高い置物になります。
Q. 家事代行を頼むのはありですか。
A. 選択肢としてはありです。ただし全部の丸投げより、「畳む・しまうだけ」のように詰まり工程に絞るほうが、費用面でも続けやすさでも現実的です。外注先が人でも家電でも、判断基準は同じです。
Q. 散らかりすぎていて、どこから手をつければいいかわかりません。
A. 場所ではなく工程で選びます。「床の物を公認の1箇所に集める」だけを、今日の1工程にしてください。それで片付いてはいませんが、次の工程を始められる状態にはなります。
Q. 家事の途中で、気づいたら別のことをしています。
A. 途中離脱は、工程の切れ目が見えないときに起きやすいです。動く前に「この1工程が終わったら座る」と決めて、終了条件を1個だけ持って動いてください。離脱しても、戻る場所が「途中のどこか」ではなく「次の工程の頭」になります。
Q. 畳むのがどうしても無理です。
A. 工程ごと削除する手があります。干した服をハンガーのままクローゼットに掛ければ、畳む・しまうが消えます。畳まずに放り込む用の箱を決めるのも同じ発想です。全工程を律儀にやる義務はありません。
Q. やり始めると止まらなくなり、反動で数日動けなくなります。
A. 始める前に終了条件を決めて、タイマーで区切ってください。「1工程やったら終了」は、サボりではなく明日も動くための設計です。なお、動けない状態が長く続いてつらいときは、無理せず医療機関や相談窓口に頼ってください。
Q. 平日は無理なので休日にまとめようとして、毎回潰れます。
A. 休日の自分に期待を集めるほど、休日の山は高くなります。平日の夜に「玄関に袋を置く」のような手前工程だけを散らしておくと、休日は残り1〜2工程で済みます。まとめてやる前提そのものを、工程の分散で崩すのが現実的です。
Q. 数日でやらなくなって、また元に戻りました。
A. 戻るのは前提です。ただし工程表と、自分の詰まり工程の知識は消えていません。ゼロからのやり直しではなく、「最低ラインの1工程」からの再開で十分です。
まとめ:採点をやめて、工程を数える
最後に、この記事の要点です。
- 家事は終了条件も工程も未定義のタスクの塊
- 「洗濯」は8工程。詰まるのは特定の工程だけ
- 1回に完了させるのは1工程でいい
- 終了条件は観測可能な状態で決める
- 家電は「詰まり工程の外注」として選ぶ
- ためる上限は日付でなく物の量で決める
- 手前工程を今夜置けば、明日が軽くなる
「ちゃんとやる」を目指している限り、家事は毎日採点されて、毎日不合格になります。
採点をやめて、工程を数える。干されたままの洗濯物は、あなたの性格の証明ではなく、ただの詰まり工程の位置情報です。
位置がわかれば、直せます。
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